ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKS 2.0: スマホゲーム会社のハリウッド映像事業子会社設立報道と巨額国民財産を毀損させたクールジャパン官製映画会社の疑問点

2017年10月3日、スマートフォンゲーム会社の株式会社アカツキがハリウッドにグローバル映像事業子会社AKATSUKI ENTERTAINMENT USAの設立を発表した。

同社のプレスリリースによると、新会社の代表取締役にアンマリー・ベイリー氏が就任し、日本オフィスの責任者に鈴木萌子氏、子会社と親会社アカツキのアドバイザーにサンディー・クライマン氏を迎えいれるという。またリサーチマネージャーにニコラス・ザバリー氏が就任している。

気になる点は、上記に挙げた4名が株式会社ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKS(ANEW)の出身者であることである。また、新会社の所在地もクライマン氏の個人会社Entertainment Media Ventures社と同じ所在地にあった旧ANEW米国支社と同じ住所となっている。

ANEWとは、経産省がクールジャパン政策一環として主導し、約95%が政府出資の官民ファンドの産業革新機構が60億円、100%の出資を決定し、2011年に設立された官製映画会社である。ANEWの事業目的は、日本コンテンツの海外展開として、日本のIP を使ったハリウッド映画を製作するというものであった。

しかし、ANEWは設立当時から問題を抱え、日本側の最高執行責任者(COO)が次々と交代、た経産省幹部が国会等で一定期間内の投資回収の蓋然性等について答弁するも、投資決定時の将来見通しは早々と破綻状態に陥っていた。

毎年赤字経営を続けていたANEWは、通算で7作品の企画開発を発表したものの、1本の映画も撮影に至ることなく、2017年6月に産業革新機構がそれまでに実行した22億2000万円の出資をほぼ全損する形で別のベンチャーキャピタルに3400万円で身売りされた。

上記のサンディー・クライマン氏は、2012年にANEWの代表取締役兼取締役に就任し、ANEWの米国支社であるANEW USAとその制作子会社ANEW PRODUCTIONS LLCの代表も務めた。また、クライマン氏の個人会社の従業員であったアンマリー・ベイリー氏が企画開発部ヴァイスプレジデントを務め、鈴木萌子氏もビジネス開発部ヴァイスプレジデントの役職にいた。また、リサーチマネージャーのニコラス・ザバリー氏も同じくANEWでリサーチャーを務めていた。

プレスリリースにある新会社の事業説明を見ると、内容は旧ANEWと酷似しており、「日本とハリウッドとの橋渡し役」という企業理念まで同じになっている。

つまり、新会社は、所在地といい、人員といい、何から何まで旧ANEWの業務執行体制となっており、「ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKS 2.0」形態だといえるのかもしれない。

今回のアカツキの映像子会社設立の報道には不可解な点も存在する。

今回の子会社設立ニュースは日本の新聞社と米エンタテイメント紙「ヴァラエティ」「ハリウッドレポーター」らによって報じられたが、その内容は日米報道で大きく異なっている。

これまでの日本の報道では、彼らが国策クールジャパンの暴走で日本の巨額公的資金を沈めたALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSの出身であることに一切触れていない。

一方、米紙「ヴァラエティ」「ハリウッドレポーター」とも「ALL NIPPON ENTERTAINMEN WORKS」に触れ、「ハリウッドレポーター」に至っては、サンディー・クライマン氏とアンマリー・ベイリー氏が日本政府支援で設立された官製映画会社の出身者であるととともに、ANEWが1本の映画も完成させることなく破格の安値で身売りされた事実までしっかりと報じている。

このように、日本の公的資金、日本の公益に係る関心事の報道が、米紙の英語報道だけで、日本語では一切報道されていない事態は極めて大きな問題のように思える。

さらに新会社の業務体制には別の懸念もある。

第一に、旧ANEWの失敗による日本の公的資金の巨額損失が、損失を招いた会社の経営者、役員たちの個人的利益に繋がっていると思われる点である。

今回の新会社の事業とは、旧ANEWの人たちよる、旧ANEWと同じ事業になっている。そうなると、当然これには、旧ANEWの業務として行った海外フィルムマーケットや各地のイベント参加や接待を通じ培ったプロデューサーとして重要な人材プール、リサーチの成果、ノウハウ、国内外のコネクション等が利用されるのはいうまでもない。

また、旧ANEWは、官民ファンドガイドラインに「民間の競争に与える影響の最小限化」も定められているにもかかわらず、日本企業IPの英語資料を作り、契約、法務、交渉を無料で行うなど、本来対価を受けるべきサービスを公的資金で肩代わりする形で不当廉売し、日本IPの管理を独占してきた立場だった。ANEW設立を主導した経済産業省報政策局文化情報関連産業課の伊吹英明課長も『2012年5月15日内閣府コンテンツ強化専門調査会』で、「日本のコンテンツはここに預けないとそもそも仕事ができない」とANEW事業の日本における独占的立場を宣伝していた。

このように、これらは実質、日本の公的資金の巨額損失によって培われた財産であると言っても過言ではない。

そもそもANEWは、「ANEWで蓄積するノウハウを広く日本の産業に還元し、日本のクリエイティブ産業の発展に繋げる」という目的に社会的意義を認め、国が公的資金を出資した側面がある事業である。

しかし、当初の公的資金投資の意義とは裏腹に、ノウハウはおろか、ANEWに係る一切の情報は不開示という現状になっている。なお彼らの経営下の広報は、実質公的資金で運営されているにも関わらず。会社法に則った「通常の株式会社である」ことを理由に問い合わせにも応じてこなかった。

また「ヴァラエティ」報道は、ANEW以前にはプロデューサー実績が皆無であった社長アンマリー・ベイリー氏の経歴を紹介している。

そこには、今回の新会社を率いる彼女の日本コンテンツ関連の企画開発の実績として、ロン・ハワードのイマジンエンタテイメントと開発した『Tiger&Bunny』、デプス・オブ・フィールドとリュック・ベッソンのヨーロッパコープとの『藁の盾』テレビドラマ化開発が宣伝されおり、一方的に開発コストを日本の公的資金で負担するからこそできた旧ANEWの企画開発が、新会社のパブリシティに利用されている。

次に、新会社の経営方針を見ると、旧ANEWの経営実態との整合性に疑問が生じている。

ヴァラエティ」報道によると、新会社は、2018年の第一四半期中に第1弾作品の製作決定(グリーンライト)を目標にしていると書かれている。

では、旧ANEW時代に22億円もの出資を実質全損させ、6年間で1本の映画も撮影に至らない業務を実施してきた当事者らが、仮に今から6ヶ月以内に製作決定を実現できるのであれば、なぜそれを日本の公的資金で運営した業務の時にやらなかったのだろうか?

なお報道によると、新会社は既に3本の企画開発に着手しているというが、彼らが経営、業務執行をしていた旧ANEW時代は最初の3作品の企画開発を発表するまでに3年の月日を費やし、10億円以上の赤字を作っていた。そのうち第一弾の『ガイキング』に至っては、もともと開発されていた企画に旧ANEWが後乗りしただけの作品である。

また、2017年8月6日の日本経済新聞の記事『革新機構、苦戦のベンチャー投資』には、旧ANEWの経営失敗の分析として、高額報酬でサンディー・クライマン氏を社長に迎え入れ、米国に拠点を設立したにもかかわらず「日米の連携を欠き運営費が膨らんだ」というコメントが紹介されている。

決算公告によると、旧ANEWは6年間の総売上高が1500万円にも関わらず、自分たちへの1回のボーナスに2000万円を支給するような杜撰な経営を行っていた。このような杜撰経営を許した背景には、本来、経営チェックと公的資金運用チェックを行う経営者、株主、監督官庁による利益相反の結託があったからに他ならない。

では、旧ANEWと同じ人たちによる新会社が、旧 ANEWで失敗した「日米の連携」を上手く進め、自分たちへの高額ボーナスなどを我慢し、「運営費の効率化」が可能なのであれば、なぜ日本の公的資金を使った業務の時にやらず、無秩序な経営を続け、巨額の国民財産毀損を招いたのか?

いうまでもないが新会社と親会社のアドバイザーに就任したサンディー・クライマン氏は会社法において責任を負うべき旧ANEWの最高執行責任者(CEO)の代表取締役である。また、新会社の代表取締役のアンマリー・ベイリー氏、日本責任者の鈴木萌子氏はANEWの取締役ではなかったものの、両氏はヴァイスプレジデントと業務執行に重要な役員であった。

このように、同じ人たちによる、同じ事業にも関わらず、新会社と旧ANEWのこの差は一体何なのだろうか?

もし、今回の新会社で上記の問題が解消できるというのであれば、それは旧ANEWの経営は「損をしてもどうせ国の金だから」という甘えから、極めて杜撰で背任的な経営を行っていたといえるだろう。

さらに、今回の新会社は官民ファンドである産業革新機構の役割と投資意義への矛盾も浮き彫りにしている。

もし、旧ANEWと全く同じ事業が、今回のアカツキのように、一民間企業の経営判断程度できる次元の事業であるならば、国が「民間が取れないリスクマネー」と称し、監督官庁の経済産業省がサンディー・クライマン氏の補佐役という役職に職員を出向させてまで関与する必要性があったのだろうか?

また、新会社運営体制は、産業革新機構役員をそっくり抜いただけの運営体制である。仮にこの体制で事業が回るのであれば、ほとんど映画製作知識もないと思われる産業革新機構の役員や、経産省出向職員を公的資金や税金で食べさせる意味がどこにあったのだろうか?

旧ANEWが支援した会社を見てみると、日本テレビ、バンダイナムコ、東映アニメーションなど数十億円から数百億円の巨額の経常利益を上げている大企業たちである。このような会社はそもそも国の金でアメリカ人脚本家を雇わなくとも、自己資金で企画開発ができていたはず企業たちである。

さらに、個人的に注視しなければいけないと思うことに、この新会社と2017年の政府施策との関係が挙げられる。

内閣府の「知的財産推進計画2017年」によると、具体的な投資先は明言されていないものの、新たに映画振興施策として「官民ファンドによるリスクマネーの供給を講じる」ことが謳われている。

新会社の事業が「日本とグローバル市場との橋渡し役」と謳われていることや、過去の公金の流れからも、これが政府が推進し、支援対象にしている「クールジャパン」に該当する可能性が高いと思われる。

例えば、こういう経済産業省などにとって「国の金が出しやすい」体裁が整った場合、こうして看板だけ変え、中身は同じ人たちの会社に、産業革新機構からクールジャパン機構と官民ファンドの看板を変えただけの公的資金や、クールジャパン関連の海外展開支援の補助金が投じられる可能性がないともいえないだろう。

今回の報道に見るとおり、巨額の国民財産の毀損を招いた旧ANEWの大失敗が発生しても、その経営責任者、役員らは全く痛んでいない。これは、監督官庁が天下り、官民ファンド出資で行う杜撰な経営の損失は一方的に国民負担に回すことができ、その責任が一切総括、検証、情報公開されずに済まされる仕組みだからである。これまでANEWの失敗に関する国内報道もごくわずかである。

産業革新機構はANEW株式売却の際に損失を非公表とした。また、産業革新機構のANEW株式売却のプレスリリースを見ると、一般の国民の普通の注意と読み方で読んだ場合、公的資金を投入したANEWが役割を終え、あたかも産業革新機構が何かいいことしたような印象まで受ける内容になっている。

つまり、ほとんどの国民は、産業革新機構が22億2000万円を投じたにもかかわらず、監督官庁の経産省が産業革新機構運営に係る法令違反定められた業績評価に虚偽の記載を続け「本来やってはいけない投資」をごまかしたことや、産業革新機構役員による利益相反経営体制、何ら成果も出さず破格で身売りし大損させた、という事実を知ることができないでいる。

今回の新会社の報道は、旧ANEWの背任的経営や、公的資金投入そのものに問題があったことを明示していると言えるだろう。旧ANEWの失敗の総括、検証、情報公開、報道は、将来のこの分野の日本の発展のためにも絶対に必要なことだと思う。

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“ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKS 2.0: スマホゲーム会社のハリウッド映像事業子会社設立報道と巨額国民財産を毀損させたクールジャパン官製映画会社の疑問点” への 2 件のフィードバック

  1. 素朴な疑問です。

    Twitterで主に日本における映画事情についていつも啖呵切っているのを見てますが、

    まあその批判は正しいのも多いでしょう。
    ハリウッドや韓国映画と比べても邦画事情は決していいものとは思えないことも多いです。

    ただ色々と調べてみても、あなたの実績は乏しくてとてもそこまで批判できる資格があるのかなと思うのですが…。
    会社を見てもとても実績があるとは思えず。

    映画ジャーナリストを名乗れば素直にその主張も頷けるのですが、プロデューサーを名乗っているのに、自分は安全圏にいるように見えて…
    まるで海外帰りの意識高い系のような。
    Twitterでのいいねやリツイート稼ぎにしか見えません。

    それこそあなたの批判するダメな邦画を作って1円でも売り上げ出している邦画製作者たちのほうがマシとも思えます。

    1. あなたの素朴な疑問にお答えします。

      ”ただ色々と調べてみても、あなたの実績は乏しくてとてもそこまで批判できる資格があるのかなと思うのですが…。”

      映画産業行政における税金、公的資金、適正な支援のあり方を論じることは国民の健全な批判だと思っておりますので、その資格がないとは思っておりません。

      ”映画ジャーナリストを名乗れば素直にその主張も頷けるのですが、プロデューサーを名乗っているのに、自分は安全圏にいるように見えて…まるで海外帰りの意識高い系のような。Twitterでのいいねやリツイート稼ぎにしか見えません。”

      映画行政の問題は私の体験から大事な問題であると認識し、これを放置すると私と同じように困る人が今後出てくるという動機から、その誤りを示し、是正するためにこうした発信をしております。また、私の発言の責任や立場が、名乗る肩書きで変わるものでもありません。

      ”それこそあなたの批判するダメな邦画を作って1円でも売り上げ出している邦画製作者たちのほうがマシとも思えます。”

      私のすべての発言において、”ダメな邦画を作って1円でも売り上げ出している邦画製作者たち”を批判したことはなく、あなたの書いていることは事実ではありません。映画行政の無駄遣いの問題、働く人の環境問題はこれには当たりません。誤った認識と妄想なので、正しく文章を読み、適切な認識を持ってください。

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