なぜクールジャパンの思い込み施策と税金の無駄は繰り返されるのか?:経産省平成27年度補正予算67億円と日本IP海外展開についての正しい知識

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日本政府は2018年までにコンテンツ輸出を3倍にする計画を立てている。しかし「日本はすごい、あとは売り方の問題」というクールジャパン施策の思い込みは適切な映画産業支援への思考を蝕んでいる。一方で「人」を育むことを無視し続ける「思い込み戦略」に付き合わされる日本のクリエイティブ産業はたまったものではない。

平成27年12月18日、経済産業省は平成27年度補正予算案を発表した。その中でメディアコンテンツ課は「地域コンテンツ海外流基盤整備事業」に66億9000万円を計上している。この事業は平成24年の補正予算以降にこれまで215億円を費やしてきたプロモーション、ローカライズ支援事業(J-LOP)に加え、権利許諾を円滑化するための権利情報データベースを作ることを目的としている。

またこれを報じた米ヴァラエティ紙によると、複数の企業からなる製作委員会制度によって複雑化している権利者情報を海外バイヤーに対して明確に示すとしている。

データベース整備があれば日本の知的財産に突如高値が付いたり、頻繁な取引が促され、コンテンツ輸出が促進されると信じ込む思考法、これは日本の政府会議室だけに通用する独自のの「思い込み」である。この「思い込み」は専門性や適切な分析も欠き、問題の解決策のためにデザインされていない。さらに「思い込み」が作る法外な税金の不必要な事業は、しばしば天下りの温床になっている。

世界最大のデータベースは既に存在

果たして年間何人の海外バイヤーがこう言った情報を欲しているのか?そして日本の権利者情報は本当に取得が困難な場合の方が多いのか?そして日本独自の権利データベースは本当に知的財産の活用における問題の解決策なのか?

そもそも映画、TV番組、アニメ、ゲームを網羅する世界最大のデータベースは存在している。データベースの問題は巨額の税金を使わなくともアマゾン子会社のインターネットムービーデータベース(IMDB)を利用することで簡単に解決することができる。

IMDBとは世界の産業プロフェッショナルの常識となっている情報ツールであり、過去の作品から、現在企画開発中の作品の製作会社、プロデューサー、監督から俳優、クルーのビジネスコンタクトを入手することができる。またタイトルによる検索だけでなく、製作国「Japan」を選択することで、日本製作作品に絞って調べることも可能である。

もし日本の著作者が海外バイヤーに権利者情報を知って貰いたいのであれば、当事者自身で最新の情報に更新すればいいだけである。有料サービスであるIMDB Proの料金は月額14.99ドルか年間149.99ドルである。また30日間の無料体験も設けている。こうした産業に関わる人が知る当たり前の民間努力で、経済産業省の億単位の事業の問題は解決することができる。

また海外マーケットにおいてはCINANDOというデータベースがあり、作品やバイヤーの参加スケジュールやコンタクトのほか、オンラインで試写やアポイントまでとることができる。

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(写真:IMDB Pro)

酷いデザインとコンテンツの政府系データベースの乱立

映画関連についていえば使い勝手が悪く、デザインだけでなく英語も酷いウェブサイトも乱立している。またデータべースは一時の補正予算だけでは済まない。

その一つが文化庁が管轄している全国ロケーションデータベースである。2015年3月にリニューアルこそなされたが、東京のロケ地情報が都庁舎のみになっているなど、サイトのコンテンツの充実度はかなり低い。また最新情報は同年3月6日の「サイトをリニューアルしました」の1件のみとなっている。

しかし、何の更新もないこのサイトの管理に年2100万円の税金がかかっている。内訳は公募委託の特定非営利活動法人ジャパンフィルムコミッションに800万円、一般競争入札委託で日立システムズに1300万円となっている。ジャパンフィルムコミッションといえば、海外に行ったロケ誘致PRの際「日本で働くクルーは深夜、長時間労働が可能、おまけに残業代もかからない」など吹聴した組織である。また公益財団法人ユニジャパンが運営している日本映画データベースも存在している。

今回新たに経済産業省参加のデータベースが加わろうとしている。これにおいても結局は国際的に機能しない日本独自の「思い込み」であり、開設後は役に立たないものを管理することを仕事にするいくつの映像系法人の飯の種にされる。権利の集約化を言うのであれば、日本に必要なものは無駄を排除したクリエイティブ産業支援の集約化が先だろう。

国民に不必要なもを法外な税金で買わせる天下り事業

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「世界から賞賛されている日本の知的財産はお宝の山である。そして国がクールジャパンだと権利集約化を行えば日本のIPが活発に取引され、日本にお金が集まる」経済産業省による「思い込み」はこれまでも天下り事業を作り、そして失敗している。

2011年、国内の企業や個人が保有している著作を集約しハリウッド映画化の海外展開を行うとし株式会社ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSが設立された。(関連記事:2013年2014年

そもそもこの会社は、これまで日本ができないことがこの会社によってできるようになるという「革新性」と「公益性」が認められ設立に至っている。さらに経済産業省は「この会社を通さないと日本は仕事ができない」「3年で利益が出る」「世界興行収入1000億円のヒット」など内閣府の戦略委員会や国会で説明してきた。しかし4年以上が経過する今、この会社は日本のエンタテイメント産業を再生しているどころか、映画すら1本も製作できていない。

今ある結果は映画製作の根拠を無視した「ニッポンのイノベーション」の「思い込み」が原因である。国が権利を集約化し、英語のプレゼンテーション資料作れば、世界の産業資本が日本IPにこぞって投資をし、素晴らしい映画を作るフィルムメイカーが集まるわけではない。さらに映画プロデュースとはただ作ればいいという話ではなく、適切なマーケティングを行い、日本の公益に叶う利益を手にするところまでが役割となる。

劇的に変化する国際情勢の中でも「ハリウッドで大儲け、なぜなら日本の潜在能力はすごいから」残念ながら政府会議室の稚拙な思考が通用する映画ビジネスなどこの世界には存在していない。

2015年4月27日の官報によれば、ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSは資本金11億1500万円(11億1000万円が公的資金)に対し、利益余剰金が-10億100万円、第4期の純損失が4億3300万円となっていている。

「3年後から継続的に利益を出す」はずの映画会社がいまだ映画を作る目処すらない状態であれば、そのキャッシュフローに致命的な問題が生じているように思える。それでもこの虚業を続けられるのは、これが天下り付きの公的資金で経営されているからである。

ちなみにANEWと今回のデータベースは担当課は同じ経済産業省メディアコンテンツ課である。

実効のない無駄事業の裏に潜む利益相反行為

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今回の補正予算案はデータベース構築への補助だけでなく、現地化、プロモーション事業においても補助事業者による利益相反行為が行われており、公平、公正さを欠いた税金流用が構造化している。

補助金申請を指導する立場にいる映像産業振興機構には広告代理店の株式会社クオラスの社員が出向している。昨年5月、映像産業振興機構、クオラス、アサツーDKの複数の企業体が自主プロモーション事業を申請し、1億円以上もの補助金が承認されていた。さらにその事業内容もカンヌ映画祭の日本の映画産業窓口において特定の消費者製品を押し売りするという極めて不可解なものであった。(関連記事1関連記事2

また監督官庁である経済産業省は共同でプレスリリースを出しこの事業の支援を表明し、映像産業振興機構の手配で異動間際だったメディアコンテンツ課の課長がこのイベントの来賓としてカンヌに出張している。これは補正予算案にある公益目的の補助に大きく矛盾している。

これに対して情報公開請求を行ったところ、経済産業省は「情報を公開すれば映像産業振興機構の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある」と不開示の決定を下した。すなわち経産省も参加した利益相反の税金の流れは秘密にすべき「正当な利益」だとしている。一方でJ-LOPの助成においてはプロモーション支援においては効果を高めるため事業内容を開示すると規定している。よって自分たちが自分たちに税金を使う時だけ情報は公開しないというのは公平、公正さを欠く処分である。

映像産業振興機構には平成24年補正予算で155億円、平成26年補正予算で60億円の補助を受けている。そしてこの度のこうした癒着構造が改められないまま、補助率の上限を費用の2分の1から3分の2に引き上げる形で67億円余りが投入されようとしている。

更に経済産業省はJ-LOP設立時の平成24年の補正予算案を示した際、映像産業振興機構に受注させる意向を記してる。官公庁があらかじめ受注の意向を表明するのは官製談合防止法違反に該当する行為である。

このような利益相反は前述したALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKSにおける公的資金運用にも発生している。産業革新機構が会社を設計したのだが、設立後は産業革新機構の役員が代表取締役と監査役に就任、社外取締役は同じく産業革新機構の役員の部下であった。更に株主総会も100%産業革新機構である。(現在99.99%)

それに加え監督官庁であり出資者の国からは、経済産業省が天下りしている有様である。すなわちでたらめ映画会社への公的資金60億円の取り扱いの時点ですでに利益相反が生まれている。

産業革新機構に改善要求を行った財務省の職員はこのような形の投資は公的ファンドの運用違反であるとも説明している。

ちなみにANEWと今回のデータベースは担当課は同じメディアコンテンツ課である。ここまで実効のない「クールジャパン」「海外展開」「権利集約」の繰り返しは、もはや国民財産の横流しに他ならない。しかし国民財産に対して選手兼、監督兼、オーナー兼、審判のような特定の人間のための腐敗したゲームに国民財産が付き合わされている。

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著作権活用の問題の解決:海外契約を知る

今回の本題となる複雑な日本の著作権の所在の問題は仮にデータベースがあっても解決できるものではない。これは製作委員会なり、国内の企業同士で話をつけるべき権利契約や処理の問題となる。

また海外展開において日本の知的財産を活用する場合、窓口となる企業や個人が正当な利益配当を受けるために様々な契約事項について学習する必要がある。あくまでも一例であるが映像化権においてどのような交渉が予想されるかここに紹介したい。

まず映像化権の交渉においては契約書にまとめるプロポーザル(条件提示)を話し合うことになる。主な条件はこのようなものがある。

PURCHASE PRICE (映像化権料)

OPTIONS(企画開発時に払う前金、様々あるが一般的には映像化権料の10%程度、期限は12か月程度、その後延長を定める。最初2年の前金は映像化権料に相殺されるが、延長においては相殺されない場合などもある)

CONTINGENT COMPENSATION (映画の利益配分、利益配分においては会計法、売り上げ報告書の出処、開示についての取り決めも必要)

MERCHANDISING COMPENSATION (マーチャンダイジング売り上げのロイヤリティ)

PREQUELS, SEQUELS (続編、もしくは前日譚発生時の映像化権料及びマーチャンダイジングロイヤリティの取り決め)

REMAKE (リメイクが発生した時の配当)

また映像化権契約は決して永久的に売り切る考えにないことも知っておかないといけない。著作権とは活用して初めて利益を生むものであり、権利が流動的であれば、動くたびに利益を生む。よって、利益を作り続ける契約も検討しなければならない要素である。

オプションという前金であるが、もちろんプロデューサーがその期間中に最終映像化権料を納めない場合は、権利は原作者に戻される。そうなれば原作者は再び権利を売ることができる。なおオプション料を返金する必要はない。

また仮に全額の映像化権料を支払ったとしても、支払いから2年ないし3年で撮影開始に至らない場合は権利を買い戻すことができる条件をつけることができる。こうした条件があれば永遠に作られない映画に映像化権料以外の未来の利益の可能性を阻害されないで済む。

(*あくまでもこれは一般例であり、契約においては専門のエージェントないし弁護士に相談することを推奨)

「思い込み」に騙されない

過去の例を見ても、今回の権利データベースはたった数週間の公募で採択が行われるだろう。そしてクリエイティブ産業の問題の本質を理解しない者が受託し、設計することになることも今から予想できる。

しかしこのように簡単な知識やツールを利用することで日本の知的財産の海外展開の問題は解決できる。日本独自の「思い込み」による巨額税金を投じる事業の成果は、国際競争の場では当たり前の民間努力程度である。

さらに今回の補正予算案が説明する権利の集約化によって日本の知的財産の取引が活性化されるものでもない。強いて言うならば日本の問題はエンタテイメント金融の仕組みにまで波及する。製作委員会の契約でしか資金を調達できないとなると、以後のIP活用においてもこのような国内問題が発生する。公的ファンドは本来独立資本がなくファイナンシングの選択肢が限られている日本の産業現場に新しい資本の流れを作る解決策になり得るのもである。よって本当の問題は物事を理解していない環境整備の無駄事業ではなく、クリエイティブ産業の人に届くその先の支援のあり方である。

さらにこうした海外展開支援事業の裏では、広告代理店の癒着や、監督、中立する立場である者による利益相反行為による税金の無駄も後を絶たない。

クリエイティブ産業における国際情勢は日本の行政がお利口になるまで止まっていてくれない。こうした無駄を作る「思い込み」を一刻も早く排除し、適切な支援につなげなければ、本来日本経済のけん引役に掲げたクリエイティブ産業に未来はないのではないだろうか?

*2月16日追記

経済産業省は平成28年2月15日に上記事業の執行団体の公募公募結果を発表した。3週間の公募期間中2件の応募があり、その後1週間の厳正な審査によって採択された事業者はこれまでの215億円の執行団体と同じ映像産業振興機構である。

平成27年度補正予算「地域発コンテンツ海外流通基盤整備事業」に係る補助事業者(執行団体)の公募結果について(METI-経済産業省)

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