私論「海外映画ロケ誘致計画書」

目次:

  1. 誘致の目的の明確化:なぜ国策としての誘致なのか?
  2. 日本のロケ誘致に関する己の問題点を知ることから始める:なぜ日本に来ないか?
  3. 日本の誘致の可能性: 日本の取り組むべき施策を考える。

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はじめに:

2012年5月29日、内閣総理大臣が「海外映画ロケ誘致へ推進計画」を発表した。私は、これまで3年以上前より個人レベルのライフワークとしてこの問題を考えてきた。

これを駆り立てたきっかけになった出来事は、私が製作費7億円の海外映画の日本ロケについて、ロケ誘致を謳う行政機関に問い合わせたときの担当者の一言だった。「我々は海外へのPR活動はしているが、実際に来るとなった映画への支援は存在していない」「国を動かす位の事をしない限り無理です」

しかし、この時思ったのは、絶望より次の行動へのヒントだった。「じゃあ、国を動かせばいいんだ」と。

この時以来、数多くの日本ロケを計画する海外プロデューサー、映画監督、キャスティングディレクターなどと直接話合ってきた。時には、海外に渡航して海外の声を聞き、必要とあれば無償でコンサルティングにも当たった。また、この国のロケの可能性を示すため、観光庁長官の協力を陳情し、ハリウッド大作への誘致への招請も行なってきた。

さらに、国内に山積するロケに関する問題に関しては、日本政府、地方自治体、東京都知事、国会議員、関連法人に問題改善の陳情を含む問い合わせを続けてきた。

日本のおかれている今の現状を考えると、日本への映画ロケ誘致の有益性はこれまで以上にこの国に必要となっている。また、日本にようやく見えてきた誘致への動きの遥か前から、世界各国は、プロダクション誘致に有益な取り組みと施策が行い、それがハリウッドを始めとする映画産業界に浸透している。特に同じ東アジアの中国においては、巨額な資本と買収でハリウッドの取り込みを行い、大きな実績と将来の指針を示している。

さらに、すでにここ1年の日本ロケ誘致の現状が物語るように、日本の時代劇をはじめとする日本を舞台にした物語でさえ、日本でのロケ実施にメリットを見い出すせず、カナダ,ニュージーランド、東欧などでセットが組まれて撮影される。

日本ロケ誘致は、国内にかなりの障害を抱えていると同時に、過酷な国際競争力の下に置かれている事を知らなければならない。

しかし、それにも関わらず、我が国は2012年5月29日にスタートラインの遥か後方からその「ロケ手続きの簡素化と施策を考える計画」をようやく宣言する事態となっている。

この分野での日本の将来へのビジョンを考えると、これはもう「誰が悪い」「彼が悪い」「法律でも変えない限りできない」、「国の対応が遅い」、「誰の手柄」、「彼の手柄」だと民間、政府を含め言い訳を続ける次元にはない。また、この私論は、決して行政批判で終わるものではなく、私の知っている限り知識と経験から考える私論「海外映画ロケ誘致計画」を記すことで、少しでもこの国のロケ誘致の現状を前に進めるべく変化を作りたい考えた次第のものである。

1. 誘致の目的明確化:なぜ国策としての誘致なのか?

なぜ世界各国がこぞって、国策として誘致施策を生み出しているかというと、その第一の目的は、外資を獲得し自国の雇用を創出する事が大前提にあるからである。もちろん、映画ロケ誘致獲得に派生するさまざまな利益も存在している。

一方、日本がこれまでに行なってきた施策を見てみると、「日本を世界に発信」キャッチフレーズだけが目に飛び込み、その実際の内容は、様々な要素を混同し、この大前提すら見えていない。

さらに、現状ある振興施策は、1個人、1作品、1企業への一過性のビジョンに固執し、結局のところ支援している「個」がコケてしまえばその時点で国のビジョンが途絶えてしまうものばかりである。この国の映画振興には、長期の公益を確保する構造的ビジョン、大げさにいえば100年先の日本の在り方を作る目標が必要となる。

また、今、日本が抱える映画ロケの弊害、海外が何を日本ロケに必要としているかのニーズすら認知しておらず、盲目的に「誘致」を謳い、成果のないまま時間と公費を費やしているに留まっている現状にある。

民間に例えれば、顧客のニーズすらわからないで製品開発(公費による法人設立など)をするどころか、国際水準すら満たしていない製品を政府や関連法人がこぞって海外に宣伝している現状が今の日本の姿である。

また、現在の事業は、費用対効果が著しく乏しい”PR活動”に勤しむか、「お金を払う事でしか友達とつきあえないお金持ちのお坊ちゃん」のように、外国にお金を落としてかろうじてその面子を保とうとしている。

しかし、悪い事に事業成果が上げられていない一つの失敗の損失では済まされない。例えば,料理のまずいレストランに行った時、その料理がおいしくなるまでそのレストランに通い詰める奇特な客はそういない。大抵の客は「もう二度と行かない」で済ませ、その口コミは広がる。故に、ジャパンフィルムコミッションの例の様に、「日本」という看板を付けた粗悪な公的事業、施策が世界に発信されることで、「日本は映画ロケに関しては大変まずいレストラン」の認識が、世界の映画製作者、プロダクション関係者に浸透している。これは、後世の振興妨げる大きな功罪として残る。

ちなみに、日本は20年以上映像新興に公費を費やし続けている。今の現状とは、過去のの失敗の積み重ねでもあり、成果が上がらない責任を、常に自分以外の誰かのせいにしてきた。

ここで、もう一度何のための、そして誰のための誘致なのかを整理したい。誘致とは、海外プロダクション資本を獲得し下記の公益を日本にもたらせる目的である:

  1. 雇用創出
  2. 関連消費による経済振興 (間接雇用促進効果も)
  3. 産業新興に伴う投資マネーの獲得効果
  4. 税収
  5. プロダクション経験による映画産業の人材育成と継承/日本ロケの在り方の発信
  6. 補足的な観光誘致効果
  7. 日本の文化発信

1 雇用創出

まず、どの国の新興策の基礎は、1にも2にも最優先目的は日本国内の雇用創出である。日本の感覚では、国内の映画予算規模の認識で、たまに来る映画ロケ、最大でも3ヶ月程度の期間では、日本が雇用創出の基準とする正規雇用は増えないだろうという考えがある。よって、雇用創出の意識が極めて少なく、逆に「海外へ」「海外へ」の言葉に操られる盲目的に海外にお金を落とす施策や、「観光誘致につながる」「日本のブランド発信につながる」との本質が見えない口実で予算が計上されて続けられてきたのだと思う。

海外では基本、映画プロデューサー、スタッフ、俳優(エキストラを含む)は非正規雇用(個人事業主)であることから、外国では、ロケ誘致がより直結する雇用創出の意識がはるかに高い。アメリカで映画のあらゆる分野にユニオン(労働組合)があり、それが産業として成り立っているのもこの為である。また、プロダクション規模も数億から数十億円におよび、映画誘致が一産業として成り立つ認識も強かったのだと思う。

故に、日本が豊かで誘致の雇用創出の必要性への関心がなかった時代、特に自国の映画産業の経済が乏しく、自立が困難な国においては、その飢餓感から、日本の甘い環境とは全く違う目的が設定され、自国映画産業の唯一の生存方法として将来ビジョンの下、誘致施策が育まれた歴史がある。それも日本のように「映画は文化だ、助成しよう」という文化振興という甘いものではなく、自国の雇用促進の「産業」としての面を明確な目標にしての取り組んでいたのである。結果、日本政府は、経済に行き詰まり2012年になってようやく「外国とつきあう情報基盤は?」というレベルの初動、施策を始めたのが現状なのだと思う。

日本において、仮に諸外国の誘致施策にあるような公費による還付助成制度が生まれた場合、長年日本の施策に根付いているような「お金を払って海外プロダクションに来てもらう助成の概念’と混同してはしては絶対にならない。目的の明確化の意味とは、常に日本の雇用創出に直結する事業に使用される公費であるという意識と実用性を見なければならない。

映像関係に拠出され、成果の出ていない助成や公費PRに見る傾向は「日本のコンテンツを世界に売る」「日本ブランド」とそれらしい流行の言葉を並べる広告代理店への公共事業、「俺、海外と映画作ったぜ」という特定個人や制作会社という民間努力レベルの成果への公費助成、役所においての自分の任期中の手柄を手にしたいゴール設定のビジョン、他業種の労働助成にみるような政治や行政と’仲良しな人’のみが潤う馴れ合いのものが多いためだと個人的には感じている。

しつこく繰り返すが、ロケ誘致とは「いかに外国から外資を獲得し、それを日本の雇用創出に変えるか。そしてそれを産業に従事する一人一人の国民が公益を享受するか」これが事業の明確な目的として機能し、将来のビジョンとして存在しなければならない。

2 関連消費による経済振興

また、外国ロケの映画制作で必要なものは必ずしも現地俳優、クルーの雇用だけでない。映画ロケを選ぶには、映画に必要なあらゆる要素がその国で賄え、映画を安全に撮る事ができるかかにかかっている。故に、映画施設、映画機材、滞在環境(宿泊施設、飲食施設)、交通といった所にも当然、お金が使われる。長期的ビジョンでは、間接的にこういった所の雇用促進に効果にも繋がる。

3 産業振興に伴う投資の獲得

また、産業の新興は、関連する項目への投資をもたらす効果もある。映画「ロード・オブ・ザ・リング」「ボビット」など映画招致でしられるニュージーランドの2011年度の映画産業の収益は約2000億円、その他、映画関連の投資マネー160億円も獲得している。(*1)

4 税収

税収に関しては言うまでもない。日本に所得、消費が生まれれば、当然税収を得る事ができる。

5 プロダクション経験による映画産業の人材育成と継承/日本ロケの在り方の発信

また、プロダクション経験による人材育成は、将来のビジョンにとても重要なことにプロダクション経験である。例えば、総製作費が数十億円、時に全邦画の1年分の製作費を費やすプロダクションを日本の映画産業が単独で経験することは、逆立ちしてもできるものではない。

海外プロダクションが外国ロケを選択する時、仮に日本が他国より経費面で優位だとしても、経験のない所に数億円のプロジェクトを遂行しようとは思わない。言い換えれば、日本の映画産業の経験を積んだ人材とは、誘致に必要な日本の貴重な資源の一部であることを知らなければならない。よって、一つでも多くのプロダクションを誘致する事が、将来の誘致につなげる大きな一歩となる。

現に、中国ではハリウッド大作「アイアンマン3」の共同製作が決まった。この時,中国の映画関係者は地元雇用創出の他「アクション大作に優れたハリウッドプロダクションやVFX、有名監督との仕事から学びたい」との声明をだしている。(*2)

現実的に、日本は、人件費、経費で著しいメリットを見込めない現状から、「安心、高品質」の優秀な人的資源が誘致の大きな鍵の一部となる。

6 補足的な観光誘致効果

あくまでも映画誘致とは、映画を作る事が前提にあり、不確かな観光タイアップ効果などを公費計上の大義名分にするべきではないと個人的には考える。映画プロダクションはまず誘致できる環境を整える事、素晴らしい映画ができない環境では、観光誘致を呼び込む映画は作られない。しかし、もちろん、銀幕をとおして伝えられた日本のロケ地のメッセージは、国のPRの役割をなし、海外からの観光誘致に効果に繋がる事はできる。

7  日本の文化発信

さらに補足すれば、映画は単純な娯楽だけでなく、スクリーンを通じて「日本」を世界に伝える事ができる。例えば、少し話は反れるが、映画「ラストサムライ」がヒットした後、こぞって日本人をキャストした映画や、日本を舞台にした企画が増えた。私自身、当時ニューヨークにいて、映画の影響による日本に対する認知や興味増加は肌で感じることだできた。

また、映画の影響力を利用したマーケティングにプロダクトプレイスメントがある。代表例としては、007:スカイフォールでは、ジェームス・ボンドの飲み物がマティーニからハイネケンに変わった。これは、ハイネケンUS社が約40億円を映画に支払う事で、映画に商品を登場させるマーケティングを行なったためである。これは、商品を、日本ロケに置き換えることもできる。世界に影響を与える作品に登場する「日本」「日本文化」は、銀幕を通じて世界に発信することができる。

2.日本のロケ誘致に関する己の問題点を知ることから始める:なぜ日本に来ないのか?

経済産業省は、ホームページで「諸外国に向けた我が国の情報基盤が存在していないこと、海外マーケットに関する市場調査が弱いことから、国際共同製作や海外ロケ誘致等の実績は思うように上げられていないのが現状である」と現状の問題を総括し、情報基盤となる民間委託に3000万円強の予算を計上すると発表した。また、これまでにも2009年にはジャパンフィルムコミッションなるものが設立され、前記と全く同じ事を謳い、公費でPR活動を行なってきた。

この問題総括には大きな疑問を感じる。なぜロケ誘致の実績が無いのか?それはまず、日本に存在する己の問題を知らないからであると考える。「日本は奇麗な所です是非映画を撮ってください」「日本は映画ロケのインフォメーション窓口を作りました、ロケ地案内のビデオを作りました是非お問い合わせ、ご用命を」「撮影許可を簡素化しました」レベルでは、映画ロケ誘致に優位に働く決定的な要因にはならないどころか、相手にもされない。これは、はっきりと断言できる。映画ロケの必要な要素や意思決定の過程、そもそも映画制作とは、そんな事業の範疇にはなく,仮に向こう10年、大げさにいえば100年これを続けた所で、世界の映画ロケ実施の結論に至る有効な施策にはなり得ない。

問題の本質は、海外と付き合うノウハウや情報を知らない以前に、映画を作るのに必須な条件を持ち合わせていない日本のロケ環境整備不足にあると考える。何より、海外が日本ロケに望むな条件とは、その国で安心(人的資源、設備資源、撮影所、ポスト施設、プロダクションオフィス、ロケ資源)、安全(その国の法律、治安)に映画撮影が行なえ、かつ最大のプロダクションバリューへのコストパフォーマンス評価(費用に対する映像の成果、公的支援制度)を見いだせる総合力を持ち合わせる土地でなければならない。

残念ながら、今の日本ロケの国際水準は、上記の何も持ち合わせていない。それは、外国にとって、映画撮影に不向きな国であると言う事である。

映画「マネーボール」のブラット・ピット演じるビリー・ビーンの台詞に置き換えると日本とは:

映画誘致の助成が豊富な国 > 乏しい国 > 誘致にクソな国 >>>>>日本

よって、ヤンキースに勝つ選手構成(誘致施策)が必要となる。まずこの事実を知り、受け入れ、格好ばかりの他国へのPRや情報基盤設置に毎年予算を計上を出世の手柄とするのではなく、自国の問題に対し環境整備を0から始める必要がある。

日本ロケのディスアドバンテージ要素:

1 コスト高

まず、プロダクションコストの優位性を売りにしている他国に比べ、日本はこの部分での勝負する事はできない。人件費、物価、地理的条件、言語環境(英語が使えないことよる他国に比べ余分にかかるコスト)とプロダクションのコストにおいて「安いから日本で撮ろう」という概念は生まれない。逆に、日本が安い映画の労働力を売りにするようになったら、これはまた別の問題でもある。

2 言語環境

民間、行政の両方で英語を話す事が特別な国である日本。これは、上記のコスト面だけでなく、プロダクション効率等、映画制作のあらゆる要素に影響する。例えば、役所にロケ申請の紙1枚を提出するのにも、何か物事を一つ伝達するにも余計なお金と時間がかかる。よって、よりよいプロダクション環境を求め、英語圏、もしくは英語が使用できる国へとロケが決定する。

また、近年映画誘致が盛んになってきたスウェーデンの例をとってみても、英語を話すクルーはとても重要な要素として挙げられている。

3 ロケ問題 / ロケの許可、ロケ地に置ける暴力団問題

東京のロケ問題については、以前にもブログでも延べたが、本腰をあげ日本ロケに望む環境を整備しなければならない。例えば、ニューヨークに行って、タイムズスクエア、自由の女神での撮影許可がでない、そこで暴力団の介入を受ける、代替都市でセットを組む必要があると言われたらどうだろう?

日本とは決して無理な撮影許可がとれない国ではなく、日本に望む普通の撮影すらままならない国である。

また、過去のハリウッドプロダクションの日本ロケを例に見てみても、多くの不満の声があがり、安全性と引き換えのゲリラロケを余儀なくされている。前記にも延べたが、これが、国際水準に満たないロケ資源ということであり、低水準のものをいくら公費をかけ宣伝したところで、海外プロダクションが望む顧客満足と信用を日本が勝ち取る事はできない。

一方、近年のハリウッドは中国への進出を進めている。上海ロケを行なった「007:スカイフォール」の予告編をみるだけでも、上海ロケが映画に与えるプロダクションバリューは、日本ロケの比にないくらい高いのがわかる。脚本に描かれていた状況を最大限画にできる環境、これは他国への叶わぬ憧れの意味でなく、あくまでも日本の現状を知るための例である。


4  行政支援施策の遅れ

ロケ誘致を行なっているほとんどの国は、国内経費に懸かる総予算の平均15%から20%の税制優遇措置(消費税還付)のインセンティブ施策を行なっている。また、様々な国は、共同製作協定を結び、優遇策も打ち出している。「日本行政の映画共同製作誘致政策」でも述べた、アジアやオセアニア地域にはすでに諸外国と映画共同製作協定を結んでいる国の例は(2010年10月26日時点の資料):

オーストラリア:カナダ、中国、ドイツ、イタリア、アイルランド、イスラエル、シンガポール、UK、フランス、ニュジーランド

中国:オーストラリア、カナダ、フランス、イタリア、ニュージーランド、シンガポール。検討国:ベルギー、インド、ロシア、UK

インド:ブラジル、ドイツ、イタリア、UK 交渉中:フランス、カナダ

ニュージーランド: オーストラリア、カナダ、中国、フランス、アイルランド、イタリア、シンガポール、スペイン、韓国、UK

シンガポール:オーストラリア、カナダ、中国、ニュージーランド

韓国:フランス、ニュージーランド

日本: なし

マレーシア: なし

台湾: なし(中国の関係)

この事に関して、当時韓国の釜山で海外インタビューをしていたジャパンフィルムコミッションの理事への問い合わせたが、その応えは「国の対応はなかなか遅いから」とまたも人ごとで展望を感じることはできなかった。

ただ、現在の日本の消費税率は、他国のような15%から20%の高税率は課せられておらず、ある意味還付制度を作らなくともこの部分では優遇されている。仮に、今誘致に関する内閣本部の議事録等に見る消費税還付を実行できたところで、成果はそれほどあがらないかもしれない。

そもそも、日本の税制度はアメリカの州などと違い、その決定にも国の法律改正が必要となる。よって、現状の現在の立法府の運営にこの実現を待つより、先に出来る事を考えたほうが有効だろうと思う。

5 機能不全の誘致行政と関連法人

また、ここであえて触れたいのはジャパンフィルムコミッションの失敗とその功罪である。海外において、国を代表とするフィルムコミッションとは、その国の映画誘致のハブ的役割を担い、最先端の誘致施策を実行する機関でなければならない。日本ロケを予定する最新のプロダクション情報を把握し、いち早く招致に動く、目の前にある国内問題の解決に奔走し、自国の利益を確保する有効な施策を生み出す窓口となる。

ちなみに海外のプロダクション情報やネットワークとは、国策となくとも、中学校程度の英語力を持ち合わせ、月額1500円のデータベースを購読することで可能である。なにより、観光案内窓口のとして存在するものではない。

もちろん、2009年にできたジャパンフィルムコミッションも、海外に渡航するなどそれなりの活動を行なっている。ロサンゼルスで行なわれたロケーションコンベンションで、日本誘致も行った。その際、この国の誘致に「日本人クルーの低賃金、長時間、深夜労働」を訴えた。日本の映画産業の劣悪かつ安価な労働賃金を売りにした誘致や「日本発信」は、誘致の目的ではない。振興とはこの国の産業の「人」が振興される為のものであり、誘致とは、この国の雇用創出が最大目的である。また、海外プロダクションの仕組みの観点からもあまりにも無知で、不適切、そして愚かな誘致PRであった。

さらに、ジャパンフィルムコミッションがインドへ行き日本ロケ誘致のイベントをおこなたという。しかし、インドのムンバイにある有名映画製作会社2社のプロデューサーの話では、日本ロケ誘致イベントを知っているプロデューサーは現地では皆無だと語っていた。内部的役所の論理で行なう海外PRの実情は「海外へ行き誘致イベントしてきました」だけで伝えるべき人に何一つ伝わっていない日本PRで終わっている。

ここにジャパンフィルムコミッションが海外向けに発行した「Guide to Film in Japan」という日本撮影ガイドがある。これを読んで最初に感じる事は、海外ロケを検討するプロデューサーが必要とする情報が皆無であると同時に,「日本のフィルムコミッションとは?」「フィルムコミッションとロケーションサービスの違いは?」など不必要な情報で埋め尽くされている。また、なにより英文で書かれた全ての文章が、全くもって理解不能な程酷い英語で書かれている。専門用語の欠落、数カ所のミスがあるレベルではなく、日本語原文を専門知識のもたないものが直訳している不自然な文章。これが日本の顔として海外に出回っている。おそらくこれを読んだ者は「日本は国レベルで何も知らない」「日本は国レベルでこんなにも英語が通じない、言語問題は深刻だ」とだけ受けとり、なおさら日本を敬遠する結果になるだろう。

反対に、今や世界の映画プロダクションの目的地となっているトロントがあるカナダのオンタリオ州の2012年度版の撮影ガイドと読み比べてみる。行政の仕組みから始まり、現地の人的資源(撮影クルー、アーディスと、俳優)、機材、施設、ポストプロダクション施設、交通、宿泊、インセンティブなど、撮影に必要なありとあらゆる情報が記載されている。これをプロデューサーがみれば、予算組、構想、必要な人材へのコンタクトまだ撮影計画の目処が達、「それではトロントで映画を撮ろう!」という結論に至る。

また、映画サイトのしばしば韓国のロケ誘致のバーナー広告「25%製作費還元」が飛び込んでくる。韓国の撮影ガイドを見れば、インセンティブを真っ先に紹介し、また韓国の撮影に必要な情報を網羅している。

ジャパンフィルムコミッションは、日本の国内の映画プロダクション資源を知り、それを海外に伝える窓口になる必要がある。以前、市内に撮影所や映画関連会社がある市役所の担当者との話した所、ジャパンフィルムコミッションがこうした貴重なプロダクション資源を海外誘致の材料にしたとは聞かなかった。

ある政府の官僚にフルムコミッションの問題を話した所、「役割が定まらないで設立された産みの苦しみがある」と聞いた。民間、政府とどんな事業にしろ、その目的と役が定まらないものを発足させれば、失敗に終わるのは始まる前から明らかである。

これまで、様々な政府機関、地方自治体にも陳情、問い合わせを行なってきたが、私が行く着く先は「海外がやっていること」の真似事の追求、成果があがらない言い訳を「誰かれが悪いから」と不毛な会話が繰り越されてきた。本気でこの国の内閣総理大臣が海外ロケ誘致を目指すと宣言したのであれば、目の前に広がる無数のやらなければ行けないことから始め、少しでも誘致開始のスタートラインに近づける努力を始めないと行けない。

6 国際競争力

ロケ手続きの簡素化、仮に数年後日本ロケ誘致に有効な還付支援策が生まれたとしても、それだけで日本にロケが集まってくる状況ない事を知らなければならない。

現に、昨年1年のハリウッドの動きをみても、日本の時代劇や東京ロケを設定するハリウッド大作ですら、海外でセットを組んで撮影する方法に、より高いプロダクションバリューを見いだしている。

日本を舞台にした作品だから、日本で撮影する時代ではもうない

他国を舞台にする映画を獲得する国と、自国を舞台とする映画すらとれない日本の差を知らなければならない。日本政府が、映画ロケ誘致を行なう覚悟は、盲目的なPRではなく、この国際競争力の中にある自国の状態を知る事からはじめ、乗り越える努力と覚悟が必要となる。

近年の日本を舞台にした映画の海外撮影例:

The Wolverine(2013年7月全米公開予定:製作費約64億円(1ドル=80円)

誘致政策:主演俳優ヒュー・ジャックマンの母国のオーストラリア政府が10億円の特別支援を拠出

「オーストラリアの多くの産業に雇用を生む事がことができることをうれしく思う」ー ヒュー・ジャックマン

47 Ronin (撮影地:ハンガリー 日本の時代劇セットを建設)

Pasific Rim (製作費120億円)

カナダトロントに大規模な東京のセットを建設

「雇用創出はもちろんのこと、トロントでこのようなセットを組める事を、ハリウッドを始めとする世界の映画産業に示したい」トロント市関係者談  カナダのニュース映像

また、中国の天津市と映画会社は共同で、1兆円規模の総合共同製作施設を創設するという報道もある。(*3)

この事業を行なう中国映画会社の代表の話では「この計画は外国との障害であった、ファイナンス、法律、共同製作、配給、マーケティング、セースル、産業基礎構造の溝を埋めるものである」と語る。共同製作とロケ誘致は必ずしも同一の物ではないが、密接な関係から影響を受ける要素は多く存在する。

7 ブロダクション経験不足

誘致だけでなく、どのキャリアでも同じだが、経験が無ければ、キャリアを積めない、キャリアが積めないから、経験を得られないという負のジレンマから抜けない。数十億円規模の海外プロダクション経験のない国では、日本を選択するに至らない。

8 円高と日本市場縮小による経済状況

今の円高水準は、ロケ決定に大きな影響を与える。通常、スタジオがファイナンスを完了するには、最低でも製作開始の6ヶ月前になる。仮に6ヶ月後の為替変動を見積もるも、相手の目をみて自国の立場を話すことができない日本の為替対応は、外国の利益確保の避難所として左右され続けている。これが、数十億円規模の大作では億単位、数億円規模の低予算映画だとしても、邦画が一本作れてしまう数千万円単位の為替損益が生まれる可能性を秘め、計画が立てられない現状にある。さらに、仮に80円と見積もったとしても、この円高水準では映画に反映されるべくプロダクションバリューは、その多くを為替損益によって失われる。

日本をロケにする海外映画のほとんどは、物語の中に日本が登場している。これは、純朴に「世界が日本を注目している証拠」ととららえてもいいが、別の見方では、「日本を扱えば、日本の市場で売れるだろう」というマーケティング面の腹づもりの方が大きい。日本は、世界第2位の映画市場を持っていたが、今年中国に抜かれている。また、市場規模も縮小の一途をたどり、「日本でお金を回収できない」状態にある。そうなれば、わざわざ苦労し、高いお金をかけ日本撮影にこだわる必要がなくなってくる。

9 震災風評

私は、昨年に起きた、震災では海外から多くの同情や哀悼メッセージを受け取った。しかし、同時に今回の放射能の問題では厳しい声も聞いている。私も関わっていた映画の一つも震災によってストップになった。これは、日本びいきの監督、プロデューサーが日本で撮影したいという意思があろうと、出資をするメジャースタジオの担当者が「日本で本当に安全に撮影が行なえるとは思わない」と断言したためである。これは、日本政府が信じたい正しい情報の発信不足などではなく、海外から見る今の日本の現実だと肝に銘じて誘致を考えなければならない。

3 日本の誘致の可能性とは:日本の取り組むべき施策を考える

経済的メリット、撮りたい画が撮影できる環境メリット、インセンティブの欠如、安全性の問題と、上記に述べた日本の問題を考慮すれば,よほどでない限り日本にロケに来るということは見込めない前提に立たなければならない。

しかし、日本がこれまで築き上げた国際的信頼や法制度は、日本のアドバンテージ要素として存在する。せっかく日本政府がロケ誘致をすると宣言した以上、一つ一つの問題解決から始まり、できること、できないことを考え施策を生み出す。もちろん、今の日本の財政と日本の状勢を考えると、国が借金を膨らしてまで公費の額を増やす事は好ましくない。しかし、他国との財布の中身を比較し「日本にはお金がない」と永遠に嘆く必要は無い。

私には、幸運にも世界の大半の国より日本のまだ恵まれた振興予算が与えられており、そ今ある予算を刷新的なアイディア、明確な目的、将来のビジョン、日本がこれまで築いてきた優位な部分を見定め、政府の宣言の実現に向かうべきだと考える。

1 環境整備

まず当たり前のロケ環境の整備。ただ、前記にも述べた通り、映画ロケ環境とは、「ロケーション」だけでなく外国で映画撮影を安心、安全に撮り終える総合要素が必要となる。また、その為には国内人的資源、施設資源の把握も必要となる。これは、国を挙げるのであれば、地方自治体、民間の撮影所、VFXおよびポストプロダクション施設などと連携をとる形で、明日からでも始められることである。

2 行政機関の統合し、誘致に特化する機関の一本化

経産省、文化庁、観光庁、ユニジャパン、ジャパンフィルムコミッション、ANEW、日本政府観光局など、なぜプロダクション誘致、映像振興にこうも施策や機関が分散するのか?共同製作、人材育成など様々な別要素と混同してしまうのか?各官庁のバラバラの縦割り施策がなんら成果を生み出してこなかったことはすでに証明された。

日本に必要なものは一本化された総合力

さらに、「助成金」の拠出には、助成の金額以外にも、それを生み出し、運営するの費用にも公費が使われている。機関が多ければ多い程、その税金負担の公費は増加するという無駄が生まれる。これは、今更私が偉そうに語る事でもなく、だれもが疑問に思いながらも、明治以来100年以上存在し続ける問題でもある。ある省庁の官僚の話でも、自分達の構造問題の認識はあり、出世するために予算を確保し、それを使い切ること、自分の任期内の事業成果と再就職先による安定した老後の確保をゴールとしている人は多く存在しているのだという。そして、そういう人達はどんな批判を受けようと、全く動じる必要のない制度に身を置き、時に、防衛本能といして殻に籠って意見すら拒否し、仕事を続けるのだという。

私自身の陳情で行き着く先きも「誰々が悪いからできない」「法律が悪いからできないからできない」と成果責任を逃れるものばかりであった。しかし、機関を一本化すれば、その責任も一本化される。本来はフィルムコミッションがその役割のもと創設されるべきであったのだが、もし機能していないのであれば、不要な機関は廃止し、省庁の枠を超え、身内満足ではなく、本当の意味で国際競争力勝負できる機関がまず必要となる。

この国の誘致政策には猶予がないという危機感を持つ事

もし、これができないであれば、これ以上成果のないものに無駄な予算を費やし、海外に出てマイナスになるようなPRをするのは、国民騙しにしかすぎず、いっその事、この国は政府としての映画誘致事業を諦め、世の中のためになる別のことに力を注ぐほうが公益を生むだろう。

3 インセンティブ施策

様々な国で行なわれている税制優遇(Tax Incentive)、「税」とあるが基本的仕組みは「現金還付」である。その術が直接還付であるか、転売可能の税制優遇クレジットを発行するか。転売とは他の納税者に免税分のクレジットを現金で転売するというもの。もちろん消費税を15%、20%課税している国では、全額還付という税制優遇を行なっている国もある。

しかし、現在の日本の消費税は5%と低税率であり、ある意味還元しなくとも優遇されている環境にある。しかし、アメリカの州の税制優遇クレジットの転売や、消費税免除などは法律改正が必要となる。ただ、食品など生活必要品の消費税免除もできないものに、映画ロケの税還付を今の国会に望む方が間違っているのかもしれない。

日本にこの制度を取り入れる時はシンプルに考えたほうがいい。単純に日本で消費するプロダクション経費の一定割合を現金還付するというもの。誘致に有効な水準のインセンティブを考えると、20%から30%のインセンティブ、最低プロダクション予算を5000万円、もしくは1億円以上の作品の設定が標準なように思える。

ただ、この還付には以下の点を注意する必要がある。

A  運用法

4月1日から3月31日という日本の年度予算にとらわれないもの。

映画は年度予算の都合では作られない

仮に3月に撮影したい映画があった場合、翌年度にまたがる経費は還付できないことになる。

これは、2010年の共同製作助成金発足の説明会の時、同様の質問をしたが結論は「法律をかえないとできない」とのものであった。また、その時の担当者は「国の制度は使い勝手が悪くて当然」との考えだった。結果、現在まで著しい成果が見られていない。では、原因が判明しているのであれば、機能しない物を提供するのではなく、それが成果がでるよう「法律を変えましょう」という議論から始めて欲しいものである。

アメリカの州法で、2年から5年の還付予算を用意し運用しているフィルムコミッションもある。

B 不正防止の為の罰則強化

これは民間意識にも関わる事だが、仮に還付制度ができたとすると、製作費を水増しなどを行い、税金をだまし取る行為が発生し、不正の温床になる事が容易に予測できる。

今年4月には、俳優報酬の水増しなどでアメリカのマサチューセッツ州の税還付4億円余りをを不正に受けたとしてアメリカのプロデューサーに有罪判決が下りた。(*4)被告には、4億3千万円の返還命令と、禁固3年からの4年の実刑という厳しい判決が下っている。

また、アイオア州では、TVプロデューサーが9億円のインセンティブを不正受給にしたことにより、制度が廃止になった。

日本でも、文化芸術振興費補助金の1000万円余りの不正受給があった。これについて政府関係者に相談したところ、この担当者から文化庁に問い合わせ、不正の事実を確認した。また、所管の文科省もこの不正を厳粛に受け止め、厳しい処分を下すと言った。しかし、その後「自らの不正支給の責任」を理由に、不正の追及が止まった。

公務員は、不正を知った時点で告発義務が生じるのだが、もともとのお金は税金であるため、告発義務を怠り、不正受給を黙殺しても、結局は誰の腹も痛まない。しかし、この分野での国の発展は大きく失われる。制度の悪用は、公的助成にはつきもので、新制度をつくるのであれば、厳罰化の法律を同時に作る必要がある。

公費の不正は、当事者が刑務所入れば済む問題ではなく、将来の産業の首を絞めることになる。日本でも公費を受給する者は、製作費の足しではなく、公費に見合う成果還元を常に意識する必要がある。

4 その他のアイディア案

  • 警察官が映画プロダクションに帯同できる制度 

  • メイド・イン・ジャパン・インセンティブ&ディスカウント・プログラム

例:

1:製作費の規模に応じて映画マーケティング、広告支援

2:協賛する民間企業を集めたディスカウントカード(ホテル、航空券、レンタカー、ホテル、プロダクションサービス、通信など)

3:プロダクションコンシェルジュサービス(例:企画開発でロケハンに来る際のオフィススペース提供など、通訳、翻訳サービス(民間の雇用を奪うのではなく、公費でこの部分を雇用する)

その他民間の領域でも、さまざまインセンティブ企画も考えられ、誘致に有効なソフトマネーを準備する事はできる。

海外映画ロケ誘致にあたっては、まずその目的を海外にお金を落とす事ではなく、外資を獲得し日本の雇用創出と言う明確な国益のもと進めなければならない。また、日本ロケの映画は、もはや日本のものだけではないく、国際競争力に勝たなければならない事を知り、成果のない現状の問題分析を計る必要がある。問題とは、日本国内に存在するディスアドバンテージ要素であり、一つ一つ解決に向けた行動、施策を実施しなければならない。その実施には、費用対効果とその責任所在を明確にし、財政を有効に誘致に反映するため、無駄を排除し留置を行なう機関を一本化に統一し、本当に海外ロケが必要とする形での有効なインセンティブと新しいアイディアを持って,日本ロケのメリットを示す必要がある。

「私は海外でもやれる人間」と格好いい言っても、前提に日本、日本人のアイデンティティなしでは、私は海外で働けない。日本の産業衰退、映画行政に問題があれば、海外に出て恥ずかしい、悔しい思いを経験するのは私自身だということも実感した。日本がなくなれば生きていけないし、だからこの問題を他人事と放っておいていいとは考えていない。私個人としても、実例を見せ、一つでも多くの海外プロダクションが日本でロケを行いたいと思える仕組み作りを実現できるよう、これからもこの問題に取り組んでいきたいと思う。

資料文献リンク

*1 ニュージーランド2011年度映画産業収益:ハリウッドレポーター

*2 中国のハリウッド進出:ウォールストリートジャーナル

*3   トロントに東京が出現:ハリウッドレポーター

*4 マサチューセッツの税還付不正に実刑判決 Deadline Hollywood

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