東京における映画ロケーション行政の10年間と現状

昨年から携わってきた日本を題材にしたアメリカ映画がある。脚本、プロット、製作費の調達などあらゆる面からプロデューサーと脚本も兼任している監督と話し合って来た。

例えば、日本で資金を集めるとなるとなれば、日本の出資者の方のため、より日本マーケットからの利益を追求する立場をとらなければならない。仮に私が日本側の立場に立てば、その利益の為に交渉するのが私の立場になる。当然、相違や議論も生じる。以前、日本の描写や日本マーケットのため監督自身のプロットに意見したこともあった。ただ、立場は違えど、行く行くは「作品」同じ目標をシェアするのであれば、議論も有意義なものでかつ、決して対立したものではなかった。

日本資本が難しい見解の中、今年に入り進展があった。製作費の100%を外国資本で撮影にはいると言うものだった。そして今度はこの資本に忠誠であるために最善の方法を模索するために、引き続き日本での撮影の準備に入ることとなった。

その折、3月11日に地震と原発問題が発生。地震当日、監督、プロデューサー両名からメールが届いた。

「大丈夫か?家族は大丈夫か?私の気持ちは日本の皆さんと共にあります」

私は彼らに直接会ったことはない。ただ、映画という共通言語で会話をし、次第に互いを信頼し合う仲になっていた。

私の返信は、

「私も家族も無事。ただ、今回の地震の被害はまだ掴めない。特に東北地方は津波で大きな被害が及んでいる模様。東京も余震もまだ続き、原発に問題が発生している。」

数日後、さらにメールが届いた。この時の返事で東京の近況を伝えた。そして、

「おそらく日本復興は長い時間がかかると思う。東京も影響がでる様子。原発も未だ心配事案である。ただ、こんな困難だからこそ、いつになるか分からないが、この映画は日本で撮影して欲しい。」

するとプロデューサーから以下のメールが届いた。

「私はこの映画を企画した5年前から、この映画を日本で撮影する為に費やして来た。そして、それを変更するつもりはないよ。それどころか今まで以上にこの映画を日本で撮影したいと思っている。すでにアメリカキャスト陣のエージェントにも伝えているよ」

監督からも、

「この映画は東京で撮る事に変更するつもりはない。この映画を日本で撮影する事が今まで以上重要なものだと思っている。」

海外の報道は、日本の報道より遥かに不安を煽るものになっている。別の友人からは、「早くニューヨークに避難して来るんだ。その期間はいつでもうちに滞在していいから。」というものもあった。そんな中、日本での撮影を表明してくれた海外サイドには、日本にきてよかったという撮影環境の提供、および映画の成功で応えたいと改めて思った。

東京で撮影することは、多くの問題を含んでいることは以前から海外製作陣には周知の事実となっていた。諸外国と比べれば、撮影許可、撮影環境の不備、治安など。特に海外が思う東京を象徴する繁華街などでは、そのほとんどにこれらの問題が生じている。

過去のハリウッド作品も、代替都市やゲリラ撮影を余儀なくされている事例があり、製作者からも不満の声を海外メディアを通してでも目にすることがある。リサーチ目的で東京を舞台にする映画を見るが、その殆どが「満足がいっていない画」や「これだけしか撮れなかったのか」と推測したものもあった。

東京都は2001年東京ロケーションボックスという、映画ロケに関する新しい部署を設立している。また、国際共同製作やロケーション誘致には、近年、各官庁も特別法人を設立するなど「国際映画誘致、共同製作の推進」を謳っている。

こうした機関には昨年から問い合わせをさせて頂いているが、海外映画製作者が望むもの、すなわち「東京で撮りたい画」が撮影できる環境整備に関しては、有効な政策が実行されていないように感じていた。

もちろん、「映画様だ!」と市民生活や安全を蔑ろにして、ロケ政策を行なえとは決して申してはいない。また、「私の作品は公費で映画製作を援助すべき!」といったおこがましいものでもない。ただ、諸外国の主要都市の撮影基準よりはるかに簡単と思われる事案の撮影すらできなく、またそこに治安の問題なども存在している現状こそ、日本が諸外国と映画においてうまく関わりきれていない要因であるように思える。

今回の映画作品は億を超える規模の映画企画であり、今回の誘致が東京都の利益また国益にも多少なり貢献できると考えている。また、国際映画ロケ誘致に新しい指針を示すきっかけに、また困難な時を経験している日本で映画を撮影し、世界に発信することにも意義があるとおもっている。あくまでも社会全体においては少ないものだが外資による雇用や経済効果またそれにともなう税収が生まれ、さらに、今後の東京都ロケが映画作品に有益なんだと言うポジティブなメッセージを実例で示すことで、今後控えている日本を舞台にした大作を含む海外映画企画へ伝えることができると思っている。

それ故、再度東京都ロケーションボックスへ現状と新しい形の「東京を世界のシネマスクリーンに」の政策について問い合わせてみた。

すると早速以下の通りの返事が届いた。(公務員の方からの職務上のメールなので個人情報および特定できる記述以外を原文のまま抜粋で紹介)

「東京が撮りづらい」というのは、理解はしているつもりです。許可手続きの繁雑さもさることながら、撮影の許可を出さないとしている地域があることも確かです。(中略)ただ、先般の地震で帰宅難民があふれ、計画停電等で大混乱をおこすような東京は、「ロケしやすい街」にすることよりも、先にやることがあると思いますし、それが済んだとしても、その機能を維持していくためにロケの街にはできないと考えます。

メールでの問いなので、私が伝えられないことでの誤解などもあると思うが、私の理解としては

1現在のロケーションボックスには10年前に掲げた「東京を世界のシネマスクリーンに」という政策は存在していなく、今後も整備する取り組み予定はない。

2 発足10年だが、海外が望むロケ整備にはさらなる時間を要する。

3 周知の事実である都内各所の治安問題には民間で「交渉」ください。

私の問い合わせには、「市民生活や公安を害する撮影がなぜできないのか?」、「白昼の渋谷でスクランブル交差点を封鎖して映画を撮らせろ」など無理な要求など一切していない。もちろん、震災により都民や被災者の生命や財産の為に尽力されている職員の方々の手をさいて、ロケ整備を優先しろなども一切触れていない。映画ロケ政策が存在せず、先般の困難時に突然、関係ない部署にロケ誘致の問題を言い出したわけでもない。もちろん映画製作へ公費の助成をねだったわけでもない。

私の今回の問い合わせの趣旨は、過去10年一行に進まない映画ロケ政策を、この機会に一歩踏み込んだ取り組んのご協力をお願いできないかと問い合わせただけである。

担当者は、茨城県が地域住民を取り込み地域振興の為に映画を公費で援助し、2年かかりで県内にセットを組んだ時代劇映画を例にあげ、地元住民の理解には時間がかかる旨を説明していた。しかし、東京都がおこなう海外映画誘致の映画ロケ整備は、公費で地域振興目的を汲み、地元を取り組んで作る映画の事案にかかる歳月とは比較対象にならない別事案である。

ロケ誘致を謳う政策があり、担当部署が10年も存在するのならば、東京を象徴する撮影箇所の整備はすでに整っているべきである。すくなくとも、発足時の政策に挙げていた「東京の魅力ある名所」は海外からの撮影要請が多い事は一目瞭然で、これは発足時から真っ先に取り組むべき事案であるように思える。

地域住民の理解は重々招致しているし、これは行政だけでなく、映画に携わる民間は十分な誠意をもって理解と協力を得て行かなければならない。しかし、もし東京都の反社会性力による治安問題が発生する東京主要各所でのロケ撮影に、「丁寧な説明と長期的に取りこむ取り組み」をしろというなら、民間は今後も率先して「関わりを持ち」やって行かなければならないことになる。すなわち、この件に関する行政の存在は無意味ということになる。

また、ある関係者から知事の見解として以下のことを聞いた事がある。

「撮りたければ撮ればいい。逮捕されればそこから議論がはじまるから」

何かが起きてからではなく、問題が見て見ぬ振りをするのではなく、市民の生命や財産への危険が起きないために行政の整備や治安維持があるのではと個人的には思う。

そももそも、映画ロケ誘致政策を見なければ問い合わせはしていない。もし東京都が公費で運営する映画祭に共同製作誘致やロケ誘致の催しがなければ問い合わせはしていない。ただ、10年と歳月と歳費の成果が、「実の」伴わない「建前」政策であったというような今回の回答はとても残念に感じた。

もちろん東京都だけに問題があるわけでなく、各管轄の行政機関など総合的な問題であると理解している。

ただ、誰かが動きを起こさなければ、未来10年を予測しても、日本が海外映画撮影においての地理的不利、言語環境の不利、コスト面の不利、原発の風評というディズアドバンテージを乗り越えてまで、東京や日本で撮影をしようと望む製作者がでてくるとは考えられない。

まず、映画行政全体に知って欲しいのは、海外の認識の現状と、諸外国の整備状況をである。「知る」ことが第一である。自分の任期を問題なく終える事が仕事とするならば、新しく、またよりよい方向へ向かう方向変換への布石が生まれるのは難しいと思う。

今の東京都のロケの海外が認識の現状は決して「無理難題を聞いてくれない都市」ではなく、「ごく普通」の撮影水準すらに多大な困難を強いられる都市で、言語環境やコスト面でも非常に不利益な場所という前提にたって誘致行政を理解しなければならないと思う。

現在私が把握するなかでも数十億円の規模のものなどをいれ、多くの東京を舞台にする映画企画が存在している。こういった映画の誘致を望むなら、現状を変えなければならない意識は絶対に必要になってくる。

上記のリンクで知事が発足当時述べた「東京をニューヨークのように」の政策を見る限りでは、ニューヨークでハリウッドおよびインディペンデントの撮影現場を見て来た経験から申し上げると、過去10年は政策倒れはおろか、言葉は汚いが「茶番」であったように思う。

ただ、今回原発問題にも関わらず、東京ロケを希望してくれた海外陣に何とか応えたいと思う。今日本で映画を撮り、発信すること、撮影に伴う外資の経済効果は、困難を迎えている日本の利益に繋がると思う。何より民間でできる限りで、今海外の共通認識である「撮影に適さない東京」認識は変えたい。

広告

「東京における映画ロケーション行政の10年間と現状」への1件のフィードバック

  1. 東京ロケーションボックスはそもそもだめですよ。
    昔も今も頭のおかしいおっさんがいてぜんぜん協力的じゃないから。

    そもそも制作を知らない人間がやってるんだと思います。

    そんなだめなとこよりも、制作を知っている人がいそうで
    とても丁寧な日本フィルムコミッションや他の団体と
    相談した方が無難だと思います。

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中