日本行政の映画共同製作誘致政策

日本の製作する映画の多くは、主に国内マーケット向け映画に向けられ製作されている。しかし、近年UNI JAPANやジャパンフィルムコミッションなど関連法人も新設され、政府や関連行政省庁などで、日本のコンテンツを海外へ売るため、また国内で海外プロダクションの撮影誘致、諸外国との共同製作誘致の政策を目にする様になった。

しかし、一方でこういった政策がここ数年行なわれているにも関わらず、じっさいに誘致された共同プロダクションの話は聞こえてこない。私自身、現在2つの共同製作企画に携わって他にも、日本での撮影を望んでいるハリウッドプロダクションが少なくとも3つ存在していることを認識している。(もちろん撮影に至っていないのはロケーションの問題だけではないが)

何故か?私のこれまでの経験の中でもその理由が少しながら感じる様になってきた。ある省庁の担当者との会話のなかで、「誘致を奨励するプロモーション」の政策は存在しているが、「実際に日本にやってくるプロダクションへの具体的な支援政策」は存在していないとあった。おそらくこれが大きな問題であると思う。

先日、海外メディアでは日本政府が諸外国との共同製作協定を結び、共同製作を活性化させる動きがあると報じられた。ただ、現実は実現までには長い月日がかかるとされる。

アジアやオセアニア地域にはすでに諸外国と映画共同製作協定を結んでいる国もある。

例としては:

オーストラリア:カナダ、中国、ドイツ、イタリア、アイルランド、イスラエル、シンガポール、UK、フランス、ニュジーランド

中国:オーストラリア、カナダ、フランス、イタリア、ニュージーランド、シンガポール。検討国:ベルギー、インド、ロシア、UK

インド:ブラジル、ドイツ、イタリア、UK 交渉中:フランス、カナダ

ニュージーランド: オーストラリア、カナダ、中国、フランス、アイルランド、イタリア、シンガポール、スペイン、韓国、UK

シンガポール:オーストラリア、カナダ、中国、ニュージーランド

韓国:フランス、ニュージーランド

日本: なし

マレーシア: なし

台湾: なし(中国との関係影響)

誘致支援は必ずしも、「金銭」の支援に限らない。助成金を出すから日本に来るかと言うと、そういったものでもない。製作国もしくは世界のマーケティングに合うストーリーが開発され、それを実現する撮影環境があるかが重要になってくる。環境の中には、資金面も含む共同製作体制の確立が必要になってくる。

ハリウッドを例にとると、日本が決して撮影や共同製作に向いている国だとはいえない。言語、地理、経費面でアドバンテージがあるわけでもない。したがって、日本を題材にする映画ですら、諸外国でセットを組んだほうが好ましい環境にある。

また、内容においても、例え日本のスター、もしくはアジアのスターを主演や主要キャストに置いたとしても、アメリカ映画市場が求めるアジア人はマイノリティな役に限られるのが現実である。また、字幕を使う「外国語」映画はなかなかアメリカ国内で資金調達やマーケティングできない。よって、よりマーケットにあう日本を舞台にする内容のストーリーが、他国の共同製作映画以上に必要になる。

さらに、日本の問題はマーケティング、製作等のディスアドバンテージ(不利な条件)だけでなく、日本における撮影環境も追い打ちを掛けている。日本でも地域によってはフィルムコミッションによるロケーション整備がとても進んでいる都市も存在している。

ただ東京に限って言えば、「東京を映画都市へ」という政策もあるが、実質は撮影許可やロケーションの整備が非常に整っておらず、多くの東京のランドマークや象徴的な繁華街などは実質不可能な状態で、海外プロダクションが望む映像が撮影できない。実際にこれまで撮影された多くの海外映画プロダクションが撮影の断念や場所の変更、ゲリラ撮影を余儀なくされている。

もちろん、許可の管轄や行政制度がことなるため諸外国のような環境を提供はできないのかもしれないが、日本で撮影を経験したプロダクションのほとんどがこの問題を感じていることだと思う。

さらに、慣習的に受け入れている為かどうかわからないが、各所での撮影には暴力団の問題も存在している。日本では「業界の常識」なのかもしれないが、海外プロダクションからみればとんでもない非常識と受け取られる。私が伺った限りの範囲では、関連法人や行政、警察も認識しているが率先して解決しようとする動きはなく、この問題への行政の力を得られる可能性はないように感じた。

上記を総合すると、諸外国のプロダクションにとっては、よっぽどでない限り日本に来て撮影する映画を企画することはないように思える。

言い換えれば、「海外プロダクションが日本の現状をどう見ているか」を前提に誘致政策を考えなければ、海外の映画祭や誘致イベントに出席し「日本に来てください」のPRだけでは誘致は見込めないと考えていいと思う。いかにより来られやすい製作環境するために、今打ち出されている「映画誘致行政」の整備が重要な役割になると強く思う。

現在、「ロードオブザリング」が撮影されたニュージーランドで、同じピーター・ジャクソンの最新作「ホビット」の撮影誘致が話題になっている。ワーナーブラザーズは当初「ホビット」を組合を通さない「ノンユニオン」のプロダクションとして製作しようとしてたが、俳優組合のSAGが俳優に出演ボイコットを呼びかける問題にまで発展した。ユニオン映画としての製作がに決まったが、今度は費用面からニュージーランドでの撮影変更が検討された。このことに、ニュージーランド政府は関連省庁、また首相までがワーナーと上層部と面会し必至の誘致を行なっている。それだけ、ニュージーランド国益、ニュージーランドの映画産業において、映画誘致が大切かと認識している故でもある。

先日、観光庁からスクリーンスアリズム政策が発表された。スクリーンツアリズムは日本で撮影する国際企画の映画を通じて、日本の観光振興と結びつけるというものである。この政策は非常に効果的な案だと思う。以前、私もこういった観点で、観光と共同製作と結びつけられないかと担当者の方に相談させて頂き、同庁に出向いてお話をさせて頂いた経緯もある。

また、観光庁は具体的支援プログラムを映像振興の為の公益法人UNI JAPANより発表した。内容は、日本を観光的にアピールできる共同製作プロダクションのロケーションスカウト(ロケハン)やシナリオ開発の企画開発の為の旅費を上限100万円で支援するものである。しかし、応募事項を読んでみると、決してこのプログラムが実用的には思えなかった。

応募の条件には様々な必須事項があるが、総合すると「全てが整ったプロダクション」のみが応募できるようであった。映画を製作する上で、「脚本開発」や「ロケーションスカウト」の段階で、「予算」「監督(契約面を含む)」「出演俳優(契約面も含む)」「配給会社」「公開日」を全て「必ず」とコミットして日本にやってくるプロダクションはそうは存在していないはずである。また、プログラムの応募期間は10日間余りとなれば、はたしてどのくらいのプロダクションが存在しているか疑問である。

そもそもプリプロダクションではすべて定かでないものがほとんどだと思う。企画を開発発展させ、実現させるプロセスであるため、全てに青信号がともって「GO」サインが出ているわけではない。例えば、仮に日本にロケーションスカウトに来ても、別の国へ変更するオプションも存在している。一年前に予定されていた遠藤周作原作の「沈黙」の映画化の際も、日本でオーディションやロケーションスカウトを行なっていても、撮影が未定に戻ってしまう企画もある。すなわち、企画開発とは準備期間であるとの認識しなければならない。

さらに、支援と引き換えに、映像や予告編の提供も義務づけている。これには、おそらく海外の監督や俳優の契約に事細かに盛り込まなければいけない条件になる可能性もあるので、観光PR効果をもつ規模の国際映画が申請する時点で確約することは難しいとも思う。また、これを海外プロダクションが100万円の為にこの労力を費やして申請するかとなれば、個人的意見では難しいように思える。

今回のプログラムが日本から初めて出たことは画期的だが、この応募事項を検討する必要があるように思える。もちろん、日本の税金を公益にならない形で海外へ支援するのでは困るので、支援方法などの検討も必要だろう。

例えば、まず大事なことは、この政策についての目的を絞ることだとも思う。

  • 企画開発支援により日本を取り扱う企画の絶対数を増やしたいのか?

これならば今ある政策は、既に日本に来ることが決まっていることが前提の企画のみが対象になるので、「企画開発」の条件を理解し、応募要項を「企画開発段階」で支援するよう変更必要がある。製作に至らない確立が高い、いい加減な企画への助成を防ぐために、厳正な内容の審査が必要になる。ただ、現実に至る、至らないか未定な企画でも適正な企画を選ぶことはできると思う。

  • 観光誘致を通して日本の産業も支援したいのか?

これだと、既存の応募要項である、「日本の制作会社やロケーションコーディーネーターと契約のある海外プロダクション」となるが、その分該当する企画数は減少する。それは日本撮影する映画を一つとっても様々な製作形態が存在するからである。

今回の政策では、「日本と海外が共同作業する合作映画が条件」となるが、観光PR効果を持った日本で撮影する「映画」は、必ずしも日本のプロダクションとの「共同作業」を必要としない場合もある。時には諸外国との資本のみの提携だってある。あるいは、逆に日本が海外プロダクションを必要としない国際企画だってある。映画を通して観光誘致の為の支援にフォーカスすれば、この条件も不利に働くように思える。

また、成果が疑問に思える政策に、誘致PRがある。以前にも取り扱ったが、映画関連法人がロサンゼルスのロケーションショーに出向き、誘致PRを行なった。その時、日本誘致のPRが「日本にはユニオンがなく、日本の現地クルーは追加料金なしで、深夜や長時間働けます」といったものだった。

これは、海外の撮影の仕組みやユニオンの仕組みを知っていれば、全く持って有効でないことは明らかである。海外のユニオンメンバーがいるプロダクションでは、ユニオンの規定は世界のどこで撮影しても適用される。すなわち、日本側の労働意思に関わらず、休憩の為に撮影は中断されるし、撮影時間も限定される。また、1日と1日の間の撮影時間も規定されて、前日徹夜で次の日早朝などは規約上、撮影させることすらできない。すなわち、PRした長時間労働環境すら、別に海外から魅力的な条件として望まれていないわけである。さらに、誘致競争国になるであろう諸外国をみれば、日本が人件費で勝負することができないことは明白である。またこれが日本を代表する映画法人のPRともなると、産業全体のイメージをさらに悪化される問題でもある。

映画関連法人である、公益法人UNI JAPANや特定非営利活動法人ジャパンフィルムコミッションには、民間の理事の方が名を連ねている。それこそ、行政と一体となり民間の意見も取り入れながら、本当に成果に繋がる有効な政策を打ち出して欲しいとも思う。

もちろん世間一般かれすれば、映画製作や誘致になぜ税金を使っての行政が?と思われるかもしれない。作りたい人により多くの機会を与える芸術振興の面もあるかもしれないが、産業面からいえば日本の公益のためになるものでもある。

海外からの映画を日本へ誘致となると、大きなプロダクションでは数億円の外貨が日本へ入ってくることになる。国内では雇用も生まれ、映画産業への経済効果や税収も増える。また、「世界を知る」ことのできる芸術でもあり、日本を題材にした映画が海外で報道、公開されることで日本への観光効果もある。これ故、ニュージーランドがいま首相までくりだし映画誘致へ躍起になっている理由でもある。

もちろん映画を作る側も「日本の映画行政が不備だ」と不満ばかり言っている立場ではいけないとは認識している。行政との意見交換も積極的に行い、的確な支援を議論すべきだとも思う。

さらに、税金による支援を得るということは、支援の目的である公益を達成する責任も同時に負うと自覚しなければならない。これは、海外プロダクション誘致とは関連していないが、現在、芸術文化振興助成金という名目で映画製作費の支援が行なわれている。規模て言うと2億円以上の製作費の映画で最大5千万円助成される。助成金を受け取り製作される映画も、出資還元義務のない返さなくて済む製作費、もしくは製作したら終わりではなく、助成の目的達成である社会への公益の責務も負っていると考えるべきでであると思う。社会貢献からいえば、助成を受けた映画が、小学校や福祉施設での無償貸し出しするなど行なう映画が出て来てもよいように思える。

映画産業に関わる民間も行政も目的は一つだと思う。

日本の映画を振興し、よりよいものにする。それには産業としての振興も必要だと思う。海外誘致に関しては、日本の映画産業の未来を発展させるためには重要になってくることだと思う。その為に今、行政も動きだしている。何とか的確な形で、発展して行くことを願いたい。

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